
DXの効果測定で成果を可視化- よくある課題と事例を2つ紹介
はじめに
デジタルトランスフォーメーションは、企業が競争力を高め成長を持続させるための基盤的戦略です。業務効率化や新規事業創出を目指す動きは加速していますが、実際の投資効果を数値で説明できず停滞する例も多く見られます。
特に経営層に対して投資対効果を提示できなければ、施策の継続や社内の合意形成が困難になるでしょう。なお、DXの過程は大きく3つのステップに分けられます。
デジタイゼーション(アナログ情報のデジタル化)
デジタライゼーション(デジタル技術で業務をプロセス改善)
デジタルトランスフォーメーション(デジタルを軸にビジネスモデルを変革)
各段階に応じた効果指標を設定する必要があり、初期段階では紙削減率、中期では工数削減率、最終段階では売上成長率や顧客獲得率が妥当な基準となるでしょう。
本記事では、効果測定が求められる背景や企業が直面しやすい課題、成功企業に共通する仕組み、実務に使える評価軸について解説します。
目次[非表示]
DXの効果測定の位置づけと重要性
効果測定は、DXを単なるIT導入から経営成果へと結びつける重要な役割を果たします。ここでは、DXにおける効果測定の必要性が高まる背景と、測定を怠ることで生じるリスクについて解説します。
なぜ今「効果測定」が求められるのか
これまでのDXは、新しいITツールの導入自体がゴールになることが多く、成果検証が後回しにされる傾向がありました。
現在は市場競争が激化し「どの程度業務効率化が進んだのか」「収益改善に寄与したのか」「顧客体験が向上したのか」といった具体的な成果を説明測定する文化が定着していない企業も多いでしょう。
さらに「2025年の崖」と呼ばれるレガシーシステム問題や人材不足も背景にあり、効果測定を通じた進捗把握と投資妥当性の説明が求められています。測定を継続することで、DX施策を経営目標と結びつけ、競争優位性を確立できる土台が整います。
測定を怠った場合のリスク
効果を測らずに推進を続ければ、現場での定着が進まず「DX疲れ」に陥ります。
導入に手間がかかっただけと認識されれば利用率は下がり、組織全体で形骸化する危険があります。
さらに、経営層に対してROIを示せなければ投資打ち切りや予算削減が発生し、全社的な変革が途中で止まる可能性もあるでしょう。
リスク要因 | 想定される影響 |
KPIが曖昧 | 問題点を特定できず誤った施策が継続 |
DX疲れ | 現場でシステムが利用されず定着しない |
投資打ち切り | ROIを示せず予算が確保できない |
部分最適化 | 部門単位で終わり全社成果が見えない |
DX効果測定でよくある課題4つ
DXの効果測定は、単に「進捗を数値化するため」ではなく、自社に合ったゴールを描き、改善のサイクルを回すための出発点です。ところが、現場ではその実現を妨げる典型的な課題が少なくありません。
以下、代表的なDX効果測定でよくある課題4つについて解説します。
効果指標が曖昧で、成果を説明できない
多くの企業で「業務が効率化された気がする」「顧客満足度が向上したと思う」といった感覚的な評価にとどまる傾向があります。曖昧な指標では、経営層に納得感のある説明ができず、投資継続の合意形成が難しくなります。
さらに、顧客体験や従業員満足度のように定量化が難しい要素は、成果を数値で語れない要因です。効果を客観的に示すには事前にビジョンを整理し、KPIを定義したうえで施策前後を比較可能な形で計測することが不可欠です。
部門ごとにKPIが異なり、全社的に比較できない
DXは複数部門が関与する全社的な取り組みであり、経営企画や情報システム、営業や製造など幅広い組織が連携します。しかし、部門ごとに異なるKPIを追うと、経営層に一貫した成果を提示できません。
営業部門が売上、人事部門が離職率、IT部門が稼働率を評価すると、全社の成功像が揃わず議論が分散します。統一された目的や共通指標を持たなければ、部門単位では成果と見なされても経営レベルでは部分最適にとどまります。
IT導入=効果と誤解し、活用度合いが見えない
デジタル技術の導入がゴールと誤認されると、本来の価値を測定できなくなります。システムを導入しただけで成果を出したと判断し、実際の利用率や現場での定着度を追わなければ、真の効果は不明のままです。
活用状況を可視化するためには、利用ログの分析や定期的なアンケートなどを組み込み、ツールの浸透度を把握する仕組みが重要です。
測定が属人化し、報告サイクルが続かない
効果測定を特定の担当者だけが担う場合、ノウハウが引き継がれず、人事異動や退職によって測定活動が途絶える危険があります。DXの成果は短期的に表れるものばかりではなく、データ蓄積や運用改善を重ねる中で徐々に成果が現れるため、持続的なサイクルが欠かせません。
自己診断から改善策立案、実行、再評価へとつながるPDCAを定着させることで、進捗を追跡できます。
効果測定を成功させる企業の共通点4つ
DX効果測定を継続的に機能させるには、単なる数値報告に留まらず、組織全体で仕組み化することが欠かせません。
以下4つの共通点を押さえることで、投資対効果を最大化しやすくなります。
目的とKPIを事前に定義し関係者で認識を揃えている
成功する企業は、DX開始前に目的とKPIを明確に定めています。
例えば「申請処理を半分に短縮」「顧客満足度を15ポイント改善」といった数値化可能な目標を設定することで、達成度合いを誰もが理解できます。
SMART原則(具体性・測定可能性・達成可能性・関連性・期限)に沿った設計は、プロジェクトを迷走させないための指針となります。
定性評価と定量評価を組み合わせている
売上やコスト削減のように定量化しやすい指標だけでなく、ブランド認知度や従業員エンゲージメントといった定性要素も測定対象に含めています。一見数値化が難しい項目でも、施策前後で調査を行えば比較可能なデータとして扱えます。
アンケートやインタビューを活用することで、数値では捉えきれない効果も補足でき、経営層に対してより説得力のある説明が可能です。
ダッシュボードなどを活用し、見える化を徹底している
成果を関係者に浸透させるためには、ダッシュボードやBIツールを用いた可視化が有効です。クラウド上に経営情報を集約し、リアルタイムで更新される指標を全社で共有することで進捗を透明に把握できます。下表に示すように、活用効果は複数の側面に及びます。
活用面 | 期待される効果 |
経営判断 | スピード経営を可能にする |
会議運営 | 資料作成時間を大幅削減 |
分析力強化 | 社内の分析ノウハウを共有 |
経営層への報告と現場改善の両輪をまわしている
経営層への報告と現場改善が同時進行で行われているのが、効果測定を成功させる企業の共通点です。
経営陣は自らの言葉でDXの必要性を伝え、現場が安心して取り組める土壌をつくります。現場では新しいデータをもとに改善策を実行し、経営層に成果を還元するサイクルを築いています。
DX効果測定の主な評価軸
効果測定を有効に機能させるためには、自社の目的に合った評価軸を選ぶ必要があります。
業務効率・顧客価値・財務的成果・組織文化の4つの観点を組み合わせることで、バランスよく全体像を把握できます。
業務効率の軸
DX効果測定においてもっとも分かりやすい評価軸が、業務効率です。主に、以下が典型的な指標となります。
工数削減率
残業時間の縮小
処理スピード改善
例えば請求処理が30分から10分に短縮された場合、単なる時間削減にとどまらず、余剰時間を戦略的業務に再配分できる効果が得られます。さらに業務効率の向上は従業員満足度や離職率低下にも波及するため、短期的な数値だけでなく中長期的な成果を見据えて評価することが重要です。
顧客価値の軸
顧客が感じる利便性や満足度は、事業成長を左右する重要な要素です。代表的な指標として挙げられるのは、以下の3つです。
NPS(顧客推奨度)
解約率、LTV(顧客生涯価値)
カスタマーサクセスの改善率
特にサブスクリプション型ビジネスでは、解約率の1%改善が数千万円規模の収益インパクトにつながることもあります。
財務的な軸
経営層がもっとも注目するのが財務成果です。主要な指標として用いられるのは、以下の3つです。
売上成長率
コスト削減額
ROI(投資収益率)
例えば導入費用1,000万円で年間2,000万円のコスト削減を実現できれば、ROI200%と示すことが可能です。財務面の評価は追加投資や経営判断に直結するため、定量データに基づく明快な説明が欠かせません。
組織文化の軸
DXは技術面の刷新に加え、組織文化の変革を伴います。デジタルリテラシーの浸透度(BIツールを使える社員比率)や社員満足度、改善提案件数などが代表的な指標です。
評価項目 | 測定例 |
デジタルリテラシー浸透度 | BIツール利用率、研修受講率 |
社員満足度 | 社内サーベイスコア |
改善提案件数 | 部署横断での改善活動の件数 |
文化面の定着を測ることで、施策が一過性で終わらず継続的に発展しているかを把握できます。
DX効果測定の事例2つをご紹介
理論やフレームワークだけではなく、実際の企業事例から学ぶことが大切です。ここでは異なる業種での課題・取り組みのポイントと効果について解説します。
事例① 情報通信業:サーバー運用の属人化を可視化し、最適な運用体制を構築
サーバー運用業務を可視化し属人化を解消、最適な運用体制を構築
<サーバー運用改善「アセスメント」>
【課題】
属人化によりサーバー運用がブラックボックス化。
作業内容や工数が把握できず、引継ぎや改善が進まない状況にあった。
【取り組みのポイント】
現状の運用プロセスを調査・ヒアリングし、作業内容と工数を可視化
標準手順(SOP)の整備と最適工数の設計を実施
報告書や提案書をテンプレート化し、ドキュメント作成負担を軽減
【改善によって得られた効果】
事前調査から伴走し、社内メンバーへのスムーズな引継ぎを実現
短期間で運用体制を整備し、早期の実業務開始を可能に
属人化の解消と業務負荷軽減により、安定した運用サイクルを確立
効果測定で可視化した課題をもとに、伴走支援型のサポートを展開。
その結果、「スムーズな引継ぎ」「短期間での運用立て付け」「属人化の解消」といった
改善効果を着実に実現し、DX推進の基盤となる運用体制を構築しました。
事例② 製造業(食品):RPAプロジェクトの改善支援
<RPAアセスメントPMO>
【課題】
導入済みのRPAが安定稼働せず、エラー対応に追われる状況が続いていた。
運用ルールやマニュアルが整備されておらず、トラブルの原因を特定しにくく、改善対応も属人化していた。
【取り組みのポイント】
稼働中のRPAシナリオを分析し、エラー発生の傾向と原因を可視化
改善策を設計し、運用ルールやマニュアルを整備
再発防止の仕組みを組み込み、定期レビューを行う体制を構築
【改善によって得られた効果】
エラー要因の特定により、安定したRPA稼働を実現
標準化によって新メンバーでも運用しやすい体制を構築
定期的な検証と改善により、PDCAサイクルを継続的に運用
効果測定で可視化した稼働データをもとに、課題抽出から運用設計までを伴走支援。
その結果、「安定稼働」「標準化」「継続的な改善体制」といった成果を実現し、RPA活用が一部の属人運用から全社レベルのDX推進へと進化しました。
まとめ
DXの効果測定は、数値を集めて報告して終わる活動ではなく、次の改善行動を導き出す出発点です。ツール導入で終わらず、測定によって「どの工程に非効率が残っているのか」「顧客体験はどこで改善が必要か」を把握し、解決策へと落とし込むことで初めて業務効率化や売上成長、顧客満足度向上といった成果につながります。
効果測定を継続的に行い、改善と投資判断の両輪をまわす仕組みを築くことで、DXは単発の取り組みではなく持続的に価値を生み出す経営戦略へと進化していきます。
DX効果測定を支援するサービス(株式会社システナ)
株式会社システナは、DX施策を「導入して終わり」ではなく、効果測定を軸に改善を積み重ね、組織に定着させる支援を提供しています。
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サービス内容 | 支援のポイント |
現状把握・可視化 |
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プロジェクト推進力の向上「PMOサービス」 |
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業務プロセスの変革 |
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人材育成による組織力向上 |
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